A.
妊娠後期に入り、胎動やおなかの重さを感じたりするようになると、赤ちゃんの成長を実感しますね。しかし、医師から「赤ちゃんの体重が少し小さめです。」などと言われると、その成長を直接目で見て確認できるわけではないので、次の健診の日まで赤ちゃんがおなかの中で元気に過ごしているかどうか、心配な気持ちが大きくなってしまいますね。
妊娠後期において、“赤ちゃんの体重が小さい状態”というのは大きく2つの場合が考えられます。
1つはお母さんの体格がもともと小さいために、お母さんの体格に見合って赤ちゃんの大きさも小さめになる場合です。
もう1つは、妊娠週数に応じた赤ちゃんの発育が認められず、発育が遅れたり、停止している“胎児発育不全”という状態の場合です。
赤ちゃんの発育は超音波検査によって出された赤ちゃんの推定体重と、赤ちゃんの頭囲・腹囲を計測して体型を評価することで診断されます。一回の健診で推定体重が基準値よりも下回っていても、赤ちゃんの発育の推移をしばらく観察した上で判断されます。
原因によって「体重は基準値よりも小さめだけれど、妊娠経過に伴って正常範囲内で発育が見られている。」「発育はしているけど妊娠週数が進むにつれて発育の速度が遅れてきている。」「前回の健診の時からほぼ発育がストップしている。」など、さまざまなパターンがあります。
<原因>
○お母さんの体格が小さめ
お母さんの身長が低い場合、赤ちゃんの体重も小さめになる可能性があります。しかし、機能的には問題ない場合が多く、小さめながらも妊娠経過に伴い発育していくため心配ないことがほとんどです。また、BMIが低いやせ体格や、妊娠中の体重増加が少ない妊婦さんの場合、赤ちゃんへの栄養供給不足から赤ちゃんが低出生体重児や妊娠週数に対して小さめな赤ちゃんになりやすくなります。ですから、自分の体格に合わせた適正な体重増加のための食事管理に気をつけながら生活しましょう。
もとに戻す▲
○赤ちゃんへの栄養供給不足
妊娠後期に起こる胎児発育不全の場合、胎盤・臍帯の異常、多胎妊娠、妊娠高血圧症候群や糖尿病、心臓病、甲状腺機能亢進症、高度の栄養失調などのお母さん側の異常が原因で、赤ちゃんへの酸素・栄養供給不足が引き起こされます。そのため、赤ちゃんの皮下脂肪が少なくなり、体重増加が障害され、頭部の発育は見られるものの腹部がやせた体型になります。
出産時期や出生後の赤ちゃんの管理が適切に行われれば、出生した後から発育が追い付いてくる場合が多く、赤ちゃんの状態は比較的良好に経過します。
胎児発育不全の場合は、いくつか心配なことがあるので、適切な受診のタイミングや自己管理のポイントを押さえておきましょう。
もとに戻す▲
<心配なこと>
○お母さんが妊娠高血圧症候群を発症する可能性が高い
妊娠高血圧症候群の発症は胎児発育不全の原因になりますが、胎児発育不全の発症が妊娠高血圧症候群の原因になるパターンもあります。血圧の上昇や尿たんぱくが出てくることがあるので、お母さん自身、自分の体調の変化に気づくことができるように体調管理をしっかり行いましょう。
「疲れやすい」「頭が痛い・重い感じがする」「目がチカチカする」などといった症状で血圧の上昇が発覚することもあります。そのような場合は、できるだけ家で安静にし、かかりつけの産婦人科に電話して相談した方がよいでしょう。
もとに戻す▲
○赤ちゃんが子宮内で低酸素状態に陥りやすい
胎児発育不全の赤ちゃんは、様々な臓器が機能的に未熟であることが多く、ストレスに対する予備能力が乏しい状態です。ですから、子宮収縮や陣痛の際に低酸素状態になりやすく、ストレスを受けやすい状態にあります。
また、羊水量が減ってしまった場合、へその緒が子宮に圧迫されることで、さらに低酸素状態に陥る可能性があるため、注意が必要です。低酸素状態に陥ると、赤ちゃんの胎動が少なくなったり、感じられなくなったりすることがあります。そのように感じた場合や、頻繁におなかの張りを感じる場合、陣痛が始まった場合は、赤ちゃんがすでに低酸素状態になっていたり、今後、低酸素状態になりやすい可能性があるため、直ちにかかりつけの産婦人科に連絡をして受診するようにしましょう。
また、日頃から胎動とおなかの張りに注意を払い赤ちゃんからのサインを察知できるように心掛けておきましょう。
もとに戻す▲
○常位胎盤早期剥離を引き起こしやすい
妊娠高血圧症を発症している場合や胎盤機能に異常がある場合、常位胎盤早期剥離を起こす可能性が高くなります。痛みを伴った持続的な子宮収縮、持続的な出血、気分不快、胎動消失感など、1つでも当てはまる症状がある場合は、かかりつけの産婦人科に必ず電話連絡をして、直ちに受診しましょう。
もとに戻す▲
<管理方法>
妊娠後期に“赤ちゃんの体重が小さめ”である原因には、お母さんのからだや胎盤・臍帯に問題がある場合や、いくつかの原因が重なって起こっていることもあります。どのように管理していくかは、その原因や妊娠の経過に伴った発育のパターンなどを総合的に考えて、医師が判断します。
○妊婦健診の間隔は医師の指示に従い適切に受診しましょう。
胎児発育不全の状態が疑われたら、その原因を調べながら、定期的に赤ちゃんの発育状況や健康状態を注意深く観察する必要があります。そのため、超音波検査で赤ちゃんの発育度と胎児心拍をモニタリングした所見に加え、おなかの中での赤ちゃんの動きや羊水量、胎盤・臍帯の血流の計測を行い、胎盤・臍帯機能を評価して厳重に管理することになります。
ですから、通常の妊婦健診よりも受診間隔が短くなる可能性もあります。そのような場合は、医師の指示に従って適切に受診するようにしましょう。
もとに戻す▲
○生活習慣の見直し・改善は必ず行いましょう。
胎児発育不全の治療法として食事指導や安静、点滴治療、酸素投与などが行われていますが、これらの治療法によって赤ちゃんの発育が著しく改善することは難しく、有効な治療法が確立されていないのが現状です。
しかし、体型を気にした極度の食事制限や喫煙、アルコール摂取、過酷な就労環境、過度の疲労など、お母さんの生活習慣に明らかに原因が考えられる場合は、その生活習慣を改善する必要があります。食生活に関しては、母体が余分に栄養を摂取しても発育不全は改善されません。妊婦さんに必要とされている通りのバランスの良い食事を心がけることが大切です。
喫煙・アルコール摂取は確実にやめましょう。周りのご家族に喫煙者がいる場合は分煙に協力してもらいましょう。
過酷な就労環境や過度の疲労がある場合は、母子健康管理指導事項連絡カードを活用し、体調に合わせた就労形態をとるようにしましょう。
もとに戻す▲
○持病や妊娠合併症の治療・管理は専門医のもとで適切に行いましょう。
お母さんがもともと持っている病気がある場合や、妊娠に伴った合併症がある場合は、治療を自己判断で中止したり、怠ったりすることがないように、医師の判断のもと継続的に適切な治療を受けるようにしましょう。
もとに戻す▲
○予定日より早めの分娩の可能性も。心の準備を!
赤ちゃんやお母さんの健康状態によっては妊娠を継続することがかえってリスクになってしまうこともあり、誘発分娩により分娩時期を早めたり、赤ちゃんとお母さんの健康状態によっては帝王切開が選択されたりすることもあります。経膣分娩が基本ですが、途中で緊急帝王切開に切り替わる可能性もあることを、ご家族みなさんで理解しておきましょう。
もとに戻す▲
医師から、赤ちゃんの体重が小さめであることを指摘されたお母さんは「赤ちゃんの成長のために何かできることはないか・・・」と色々と模索する中で、様々な情報に惑わされ混乱してしまうことも多いようです。
赤ちゃんの発育状況と健康状態、お母さんの健康状態は人それぞれです。「これをやったら赤ちゃんが大きくなるという100%の対策はありません。しかし、医師や助産師などに具体的に相談しながら、自分自身ができることを積極的に行いましょう。