【第9回】~ 赤ちゃんと笑顔 ~
入選
・《赤ちゃんの笑顔》
東京都 無職 73歳
赤ちゃん、なんと響きの良い言葉であろう。
私は赤ちゃんが大好きです。赤ちゃんの笑顔を見ていると寿命が延びるような気さえしてきます。
健康維持を兼ねて毎日、小一時間の散歩をしていますが、その途中で赤ちゃんに出会うとラッキーな気分になるのです。
顔を見ながらあやしていると、穢れの無い瞳が輝く。
でも中には人見知りをする赤ちゃんもいて私の顔を見た途端に泣き出してしまうことも有ります。
そんな時は
『ハハハア、赤ちゃんに嫌われちゃった!!』
そう言ってその場を離れるのだが、たいていのお母さんは済まなさそうな表情をする。
私が勝手に声をかけて嫌われたのだから、お母さんには何の責任も無いのだが・・・・
その逆に、すごく赤ちゃんに好かれてしまう
(2)
こともありました。
ある時、ベビーカーの赤ちゃんが火がついたように泣き出しました。ベビーカーを停めてママがしきりとあやしているけれど、赤ちゃんはなかなか泣き止みません。
私は思わず、そばに近寄って
『どうしたのかな?お嬢ちゃんかな?それともボクちゃんかな?』
と、声をかけると、ビックリしたのか一瞬泣き止んだ。そして私の顔をしげしげと見つめています。その可愛い顔に
『おお、可愛いねぇ』
と顔を覗き込むと、赤ちゃんが笑い出した。
『女の子なんです』
ママが少しほっとした感じでそう言います。
『お嬢ちゃんですか。どうりで可愛い筈だ、ね』
そう言って赤ちゃんに話しかけるように顔を見つめると、赤ちゃん、今度は前よりもニコニコ笑っています。
『おやおや、ご機嫌直りましたかぁ。かわいい
(3)
ですねぇ』
そう言いながら私が首を振って見せると、赤ちゃん、今度は声を上げて笑い出しました。
『そんなに爺ちゃんの顔が面白いですか』
とまた首を振りながら言うと益々声を上げて笑います。
その愛くるしさに、何度もなんども繰り返していましたが、赤ちゃんよりも先にこっちが疲れてしまって
『ご機嫌、直ったみたいだから・・・そろそろバイバイしましょうか・・』
そう言ってその場を離れようとすると急に赤ちゃんの表情が曇りだした。そしてまた泣き出したのです。
仕方がないのでまた、同じ事を何度か繰り返しているうちに、どうやら赤ちゃんも飽きてきたようで、大きなあくびをひとつすると、まぶたが重くなった様子。
やがて赤ちゃんは夢の国のお客様になったようです。
(4)
私は、赤ちゃんのお母さんに、それじゃぁと目配せをしてその場を後にしました。
お母さんは無言のまま私に会釈をして見送ってくれました。
私はご機嫌です。だって孫でもない赤ちゃんにこんなに好かれたのですから・・・・
私はそれからも散歩の途中で赤ちゃんに出会うと声をかけます。
だって、私は赤ちゃんが大好きだからです。