おへそ洗い|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第5回】~ 赤ちゃんと笑顔 ~

入選

・おへそ洗い

【一般部門】
北海道  公務員  35歳

私は、二人の娘とお風呂に入るときは、必ず娘のおへそを洗うことにしている。こんなこと、他の家ではするのかどうかわからないが・・・。
今から5年前の長女の出産の時のこと。
「お父さん、赤ちゃんのへその緒切りますか?」待望の赤ちゃんとの対面で、至福のひとときに浸っている時に、突然助産婦さんが私に聞いてきた。わが子が生まれ、極度の緊張状態からほっとしたのか、その質問に瞬間的に「あっ、は、はいっ」と答えてしまっていた。何しろ、初めてのお産。午後8時に分娩室に入ってから、もう既に7時間は過ぎていた。
安易に「はい」と答えてしまってからというものの、冷静になって思い出してみた。病院から渡されたお産に関するアンケートには、「家族の方が、お産に立会うことを希望しますか?」とあったが、「へその緒を切ることを希望しますか?」という質問はなかったはずだ。そうこうしているうちに、助産婦さんは手際よく準備を整え、私は手袋をはめ、へその緒の切り方まで聞かされていた。
妻の横には、へその緒がまだついたままの赤ちゃんがいる。へその緒は、白く半透明で、血管が通っているのもよくわかる。太さは、自分の小指くらいの太さだったはずだ。このへその緒を通して、赤ちゃんが母親の胎盤から酸素や栄養をもらっていると考えると、本当に生命の偉大さを感じずにはいられなかった。助産婦さんに言われた通り、はさみでしごくように切る。なるほど、弾力性があって太いゴムのようだ。へその緒を切り終わると、真っ赤な鮮血がにじみ出た。
出産の翌日、すやすや眠るわが子を見ていると、妻からは「へその緒切るなんて、よくできたわね。」と冷やかされた。確かにそうだ。自分の健康診断で、採血される時だって、目をそらしているというのに。でもあの時、このへその緒に通して、酸素はもちろんのこと、つわりがひどく寝ていた妻のために私が作った食事の栄養分でさえ赤ん坊に届けられていると思うと「絶対にやらねば」、という気持ちになった。
「男性は子供を産むことができないから可哀相ね」という言葉を聞いたことがあるが、男性にも出来ることがあると思う。それは、パパとしての初仕事「へその緒を切る」。これは、お産を終えて疲れきった女性には出来ないのだから。
今日も5歳と3歳の二人の娘と風呂に入りながら、自分の小指を使ってへそ洗いをしている。「キャッ、キャー」と笑いながらも素直に洗わせてくれるときはいいが、機嫌が悪いときは、もう大変だ。「やめてー」とまるで小学生高学年になったかのようなふてぶてしい態度で洗わせてくれない。
こんなおへそ洗いも、あと何年できるのだろうか?娘たちから「もう、お父さんとは入らない」と言われた日には、もうおへそ洗いも終わりなのだろう。
その日が来ることを考えたくないが、娘たちのおへそを洗っては、出産のあの瞬間を思い出す。

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