【第5回】~ 赤ちゃんと笑顔 ~
佳作
・赤ちゃんと便秘
【一般部門】96票
樋口教子
東京都 主婦 29歳
「あれ?さいごにウンチしたのいつだっけ?」
無事に出産をおえて数週間、里帰りした実家で赤ちゃんとの生活が、
落ち着きつつある日の出来事だった。
生まれたばかりの娘のウンチが昨日の朝から出ていない・・・。
今まで日に何度も慣れない手つきで悪戦苦闘しながら
ウンチのついたオムツを替えていたのに、
夜寝る時間になっても出した気配が、ない。
私の里帰りに便乗する形で一緒に「里帰り」した主人に聞いてみる。
すると「僕も(ウンチのついたオムツを)替えていないよ」
ますます心配になって母に聞いてみる。
そして、やはり母も知らないとのことだった。
私も主人もそんなに便秘で困ったことがなかった。
むしろ快調なほうだ
病院での沐浴指導の際、赤ちゃんが一日一回ウンチが出ていなかったら
綿棒で刺激してください。との説明にも少しピンとこなかった。
「たぶん、うちの子は平気だろう」根拠のない過信をした
自分が恥ずかしかった。
去年、知り合いが猛烈な腹痛をうったえて救急車で運ばれた。
原因は、強烈な便秘とのことだった。
点滴を打ってもらいすっきりした顔で戻ってきた知り合いは、
周囲のたかが便秘で大騒ぎして・・との声に、
恥ずかしそうな、でも真剣な顔ではっきり言った。
「お腹にたまり過ぎると破裂して死んじゃうこともあるんだからね!」
その言葉を思い出し、一瞬たおれそうになった。
でもそんな事も言っていられない。
床上げも済んでいない私に変わり、弟に夜遅くまで開いている
薬局でワセリンを買ってきてもらった。
ウンチがでていない不快感からなのか、手足をばたつかせ
真っ赤な顔で泣き叫ぶ娘に
早速、病院で言われた通り綿棒にワセリンを塗って、
肛門のあたりにソォ~ッと入れて刺激してみる。
結局この日は失敗におわり、次の日に病院で診てもらうことにした。
一夜明けて、休日だったので救急病院に朝一番に行った。
朝早くにもかかわらず広い待合室では、
具合の悪そうな赤ちゃんや子供がいっぱいあふれていた。
みんな自分の子供の体調を心配しながら眠れぬ夜を過ごし、
朝早くから具合がわるくてぐずる子供をあやしつつ、
診察の順番が呼ばれることを待っていた。
しばらくして娘のなまえが呼ばれた。
奥の部屋に通され、年配の女医先生にお腹を触診してもらった。
「子供用の浣腸をしましょう」
しばらくぶりに見る娘のウンチに安心しつつ、
今後のケアの仕方を教えてもらい病院をあとにした。
その日から、娘のウンチは
ベビーバスに沐浴剤を入れ、赤ちゃんがリラックスした
お風呂上がりに行われ夫婦の共同作業になった。
夫が綿棒で刺激しながら横で私が赤ちゃんのお腹をなでる・・。
少しずつ黄土色の絵の具みたいなウンチが出てきた。
「ふぅ、よかった・・・。」二人顔を見合わせてホッとする。
時には、つまらない夫婦けんかをした後にこの作業をした際に
ウンチが勢い余って夫の顔にとんだ事もあった。
思わず二人とも大笑いしてケンカをしていたことを忘れてしまった
こともあった。
お互いにかけ声を掛けたり、真っ赤な顔でふんばる娘を応援したり
親子三人の大事なきずなが生まれた。
あれから三ヶ月が過ぎた初夏の頃。突然その日が来た。
テレビの修理を依頼して作業してもらっている最中のことだった。
何と娘が自力でウンチをだした!娘はすっきりした顔でにこにこ
笑っていた。いい笑顔だった。私たちも嬉しくて笑った。
その日を境に私たちの「共同作業」は終了した。
あれから娘はコツみたいなものを掴んだのか、今日は三回もした。
少しずつながらも日々変化していく娘の成長を喜びつつも
こうやっていつか自分たちの手を離れていってしまうのかと
少しさみしい気持ちにもなった。
それならば、その日が来るまで親子でいっぱい笑おう。
たくさんいい思い出を作ろう!そう思った。