【第4回】~ はじめての沐浴 ~
入選
・て ー手ー
【一般部門】
愛知県 主婦 29歳
5年前長男が生まれた。私にとって初めての子供 両親にとって初めての孫 兄にとって初めての甥ッ子。難産だったので体調が戻らず、寝たきりの状態で実家に帰り、子供の面倒は私以外の大人が面倒を見てくれていた。実家での初めての沐浴は夕方にもかかわらず、何故か家族一同集合していた。
父(おじいちゃん)は、頭と耳を押さえる係・母(おばあちゃん)は指揮官と体を洗う係・兄(叔父)は、かけ湯とお風呂上りに受け取る係 私はお布団の上で横になり、みんなの様子を見ていた。
「お父さん耳に水が入らん用にちゃんとおさえてって!」
「お兄ちゃん早く掛湯して!」
「母さんこそ、早く洗ってやりゃあ!」
大きな6つの手が、ちっちゃな息子の上下左右を慌しく行き来していた。沐浴が終わり、笑顔の息子の傍らで汗だくの大人3人が
「ああすれば良かった」
「こうすれば良かった」
「明日はああしよう、こうしよう」
と作戦会議を開いていた‥。
それから行く年が過ぎ、一昨年に長女が誕生した。
5年前に指揮をとっていた母は、病気で亡くなってしまったのでもういない‥。母のいない実家にも帰れないので、長女の時は自分で一人でやらなければと、力が入った。力が入る分、母に頼れない寂しさと5年前の慌しさの懐かしさで、沐浴の準備をしながら、泣いていた私‥。
「ママ‥僕手伝うよ!」
小さな手が2つ私の横から伸びてきた。当時4歳の息子でした。5年前に慌しく動いていた6つの大きな手はありませんが、小さいけどとても頼りになるお兄ちゃんの手がそこにはありました。一生懸命、丁寧に妹の体をさすり、お風呂上りも丁寧に拭いてくれました。
それが又うれしくて、気が付いたらうれし泣きに変わっていました。
下の子は、母が亡くなってから授かった子供なので、何もかも一人でやるんだと意気込んでいますが、ふとした所で不安になり、さみしくなり、母の声が聞きたいと夜中こっそりと涙を拭く私ですが、私の隣には帰宅時間が遅いけど、いろいろ助けてくれる夫と常に一生懸命手を貸してくれる息子がいるので、頑張って育児をしていきたいと思います。
私は、将来全員の孫を沐浴させ、その又ひ孫まで沐浴させられるだけのパワフルおばあちゃんになりたいと思っています。