おふろはみんなでニッコリと|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第4回】~ はじめての沐浴 ~

入選

・おふろはみんなでニッコリと

【一般部門】
福島県  会社員  26歳

「ギャアギャアわめくなっ、お湯ん中に沈めんぞ。」
生後七日の娘が、病院から退院したその夜、初めての我が家での入浴。娘はこの時、初めてのお風呂で、僕は、何も分からない、赤ちゃんに、罵声を浴びせていました。
出来ちゃった婚、その予期せぬ出来事に、順応できなかった僕は、プレッシャーと、経済的な負担に不案を抱き、イライラを妻にぶつけたり、元々、子供も好きではなかった僕は、赤ん坊の我が子にまで当たっていたのです。
「ねえ、赤ちゃんお風呂入れてよ?」
普段カッカしている僕を怖がってか、何一つ、頼み事をしない妻ですが、娘の事に関しては、何かと要求しました。娘と接する事で、娘を好きになってくれると考えていたのでしょう。
「ほら、暴れんなよ。」
僕に抱きかかえられ湯船につかる娘は泣き喚く一方です。僕の罵声が飛び交い、娘はさらに大泣きです。初めての沐浴は、散々なものになりました。
翌日、この日は日曜、兄から電話が掛かってきました。
「おう、これから、温泉でもどうだ?」
子供の頃から、よく来た、町営の大衆温泉です。五つ上の兄は、面倒見もよく、今でもこうして、二人で、出かける事がありました。この日も、二人で、温泉につかり、世間話していました。
「実は、昨日の夜中、お前の奥さんから、電話あってな、お前の事で相談に乗って欲しいって・・・。泣いてたぞ。」
僕は、告げ口した妻と、僕を説教する為に呼んだ兄にカッとなり、
「兄貴には関係ねー、俺の好きなよーにやる、口出しすんなっ。」
すると、突然兄は、僕の頭を両手で、押さえつけ、僕の顔をお湯に沈ませました。息を出来ない僕は、必死にもがき、十秒ほどして、やっと兄の手を振り解き、湯面に顔を出しました。
「何すんだよー、殺す気かーっ。」
怒りを表す僕に、兄も大声を張り上げました。
「ギャーギャーわめくなっ、お湯ん中沈めんぞーっ。」
昨日、お風呂で、僕が娘に言ったセリフと全く一緒でした。
「こんな事言われたら、どう思う?少し考えろっ。」
そう言って、兄は出て行ってしまいました。
夕方、家に帰る僕の足取りは重く、兄と妻、そして何より、娘に反省の気持ちでいっぱいでした。
家に着くと、妻は、娘を風呂に入れていました。やはり、また娘は大泣きのようです。すると、妻の大声が聞こえてきました。
「ギャーギャー喚かないでっ、お湯の中に沈めるよっ。」
温厚な妻の怒鳴り声は始めてです。これは尋常ではない、と思い、僕は、すぐに風呂場に駆けつけました。風呂場の戸を開けると、
娘を抱いて、湯船に浸かっていた妻は、ニコッとして、
「心配した?こんなセリフ聞いたら、ビックリするよね、私も昨日、あなたと娘が入ってる時、気が気じゃなかった。」
その時、妻のセリフも、僕が言ったセリフと同じ事に気づきました。僕は、涙が溢れ、その場に泣き崩れていました。
「ごめんな、今まで、こんなに言葉の暴力振るっていたなんて。」「ねえ、服脱いでよ、皆でお風呂入ろ。」
妻に言われ、三人ギュウギュウになりながら、湯船に浸かりました。すると、不思議な事に、娘は泣き止み、心地よさそうな表情を浮かべました。それを見て、僕も自然にニッコリしていました。
僕は、あれからむやみに怒ったり、怒鳴ったりする事がなくなりました。それを教えてくれたのは、兄と妻、そして何より娘です。

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