【第4回】~ はじめての沐浴 ~
入選
・親バカの失敗は成功の素!?
【一般部門】
兵庫県 主婦 26歳
「あーっっ!顔にはかけないでね!!」
看護師さんの悲鳴にも近い大声が私の耳に入って来た時、既に我が子の小さな小さなお顔からは水が滴り落ちていた・・・。
言い訳では決してないが、それくらい私の頭は初めての沐浴に緊張と興奮で真っ白になっていた。事実、私は沐浴の日が来るのが嫌でたまらなかった。できることならば、「看護師さんどうぞやって下さい」のごとく遠慮し続けたかった。
(普通に抱くことでさえまだ緊張に支配されてしまうのに、水の中で耳を押さえながら片手で支え、片手で洗うなど・・・そんな器用な事が自分にできるなんて、信じる事が無理だ!)
と、信じていた。今から思えば、(出産という大舞台を大成した者が何を謙虚な事を!)と笑い話であるが・・・。
そんな新米母の腕の中で、顔面から水浴びをさせられた稀な新生ぼうやは泣きもせず百面相のごとく顔じゅうをしわくちゃにした後、何事もなかったかの様にまたスースーと寝息を響かせた。生まれながらにしてこの親孝行振り!!
(なんて偉大なぼうやだろう!)
と胸が弾んだ感覚を私は今も忘れられずにいる。看護師さんの苦笑が実に心地良かった。
―こんな想いを素直に抱いたくせに私は、
(私が「親バカ」になんてなるはずないわ!)
と確信していた。かの有名な「親馬鹿」にだけはと・・・。―
ふと、戸棚のガラス越しに自分の姿が見れた。なんとも立派なへっぴり腰・・・。手にはガチガチに全力が集中されていた。この不格好な姿を美しいと思えるのは、命を授かり命を護り命を手にし得た人の特権であろう。
自分の手の中に目を移すと、失敗をも喜びに変えてしまった豪快な母に
「大丈夫だよ。それでいいんだよ。」
と言わんばかりのぼうやの優しい姿。さすが、ずっとお腹の中で繋がっていただけのある見事なチームワークである。
そんなぼうやは1歳を迎え、毎日自らシャワーを顔面からかけては喜んでいる。教えてもいないのに、水に恐怖というものを感じずに今日まで来た。
「さすが偉大なぼうや!」
私の親バカもすっかり板に付いて来た。
私の豪快さは治る兆を見せることなく・・・シャンプーの泡を顔に垂らしてしまったりは日常茶飯事。しかしぼうやは泣くこともなく笑いとばしてくれる。チームワークは乱れることを知らず絶好調だ!
そして私は、自負している・・・。あの時の失敗が、現在に成功として繋がっているという事を・・・。