【第4回】~ はじめての沐浴 ~
佳作
・至福の時を一緒に話そう!
【看護師助産師部門】73票
中島 和枝
東京都 看護師 29歳
沐浴なんて言う言葉、きっと子どもを育てたことがある人や医療関係者以外は知らない人が多いと思います。
私の初めての沐浴体験は〝沐浴〟という言葉も覚えたての看護学生の時でした。それまで赤ちゃんと触れ合う事がほとんどなかった私。小さな身体をあつかうことに不安もありましたが、それにも増して産まれて間もない赤ちゃんを見ることが出来る、触ることが出来る、お世話することが出来る、と言うだけでとてもワクワクしていました。
テキストでの勉強、人形を相手に沐浴の練習を重ね、ついに本番! 担当の看護婦さんや同級生の見守る中で始まった沐浴。「お風呂に入るよ…」っと、ぎこちなく話しかけ、なんとか声をかけてあげるのが精一杯。「これから何が起こるの?」っと、言わんばかりの、赤ちゃんの不思議そうな表情とは対照的に、必死な表情の私。
「次は腋と腕を洗ってと…」沐浴の手順で私の頭はいっぱい。やっぱり練習相手の人形とは違う感覚に苦戦していました。
そんな緊張をといてくれたのは赤ちゃんでした。
赤ちゃんの皮膚の温度、手や足の動き、筋肉の動きから赤ちゃんの温もりや、気持までもが伝わってくる様でした。「うん、まあまあかなあ。もうちょっとお湯かけていいよ。」なんて言っているみたいに。言葉は話せなくても、未熟な私に赤ちゃんは全身で語りかけてくれていました。心地いい、気持がいいといった表情ではなかったけど、すべてをゆだねる赤ちゃんの重みが、私に至福の時間を運んできてくれていました。
なぜなんだろう、赤ちゃんを見ているだけであたたかい気持ちになれるのは。赤ちゃんに触れるだけで幸せな気持になるのは。
母親や父親、身内の関係がなくても、肌を通して赤ちゃんと会話する事が出来る〝スキンシップ〟のすばらしさを感じていました。そして沐浴は、そのスキンシップを有効に活用できる貴重な時間なんだと赤ちゃんは私におしえてくれました。
世界中には沐浴の習慣がない国もあるそうです。ほとんどの人が生後間もなく経験してきた沐浴。実は貴重な体験だったのかもしれないのです。今や私達のバスタイムは、疲労回復や、リラックス効果など現代社会でのオアシス的空間になっています。お母さんのお腹から出てきて様々な経験を重ねていく中で、きっと赤ちゃんもストレスを感じているこてでしょう。お母さんのお腹にいたときの羊水を思わせる、あたたかい湯船に優しくつかり、赤ちゃんにとって信頼できる人、母親や父親の大きな手に支えられ、皮膚を通して会話する。自分を受け入れ、守られている事で赤ちゃんは安心し心の安定も図られることでしょう。そして、私達の心をもほぐしてくれているようです。
今、私は妊娠10ヶ月。来月にはママとなります。1ヶ月もすれば、我が子を〝沐浴〟させる事が出来ます。あの頃を思い出しながら、両親学級や、育児書などを見て沐浴を再び勉強中!
肌を通して、身体全体で話しかけてくる赤ちゃんと、どんなお話しが出来るか、どんな至福の時間を一緒に味わうことが出来るか、今から楽しみです。
「さあ、早くお話ししましょう!」