【第12回】～ 赤ちゃんへの手紙 ～
入選
・心穏やかに
静岡県 主婦 女性 30歳
赤ちゃん、ありがとう。
ママはね、今、あなたのおかげですごく幸せ。
ママはね、昔、ものすごくピリピリしていた。
ママはね、昔、ものすごく怖い顔をしていた。
4月の終わり頃、あなたがお腹にいるのがわかった。
それまでのママは、商社で営業をしていて、朝早くから夜遅くまで、ガツガツ働いていたの。男の人になんか負けない、女にだってできるのよってね。勤めていた会社はまだ女性を採用し始めて間もない会社だったから、女性はほんの数名、男社会だったのよ。その中でママはものすごく意地っ張りで負けず嫌いだった。国内、海外の出張も、夜の飲み会も、いつも牙をむいて鼻から煙をだしていた。子供が生まれても絶対仕事に復帰する、絶対辞めない、家庭と仕事を両立させる女性営業職の第一号になるって張り切っていた。自分に無理しているなとどこかで感じながらも突っ走っていた。
そんな時、お腹がいつもと違う、何か違う、少し重いような、変な感じがした。仕事中に家に帰って、ドキドキしながら妊娠検査薬を試してみた。結果はすぐに出た。陽性。驚いて手が震えた。でも嬉しくて思わずに顔がにやけた。私のお腹に赤ちゃんがいる。新しい命を授かったんだ。震える手ですぐにパパに電話した。パパも嬉しくて声が震えてた。
ママは仕事が好きだった。
でもね、せっかく私のお腹に来てくれた赤ちゃんと心を穏やかにいたいと思ったの。全力で愛情を注いであげたいなって。
それに、パパに言われたの、「赤ちゃんにはイライラしないでね」って。それでママは仕事をきっぱり辞めた。
毎日がのんびり過ぎて、とても心が満たされた。イライラしないって素晴らしい。日常の小さなことでも幸せに感じる。こんな生活があったんだなって毎日驚いた。少しずつ膨らんでくるお腹、期間限定なのが残念なくらい大きくなってくるおっぱい。
エコーで見る赤ちゃんの愛おしいこと。あの頃はあなたに画面上で会える検診の日が待ち遠しかった。どんどんたくましくなる手足、時々しか見せてくれない小さな顔。パパと一緒にエコーの写真を何度も見てた。可愛い過ぎる。
そして2012年元旦、陣痛で目が覚める、なんておめでたい年の始まり。
分娩時間19時間57分。
あまりの痛みにもう嫌だと叫び、暴れて泣いて、それを見ていたパパも一緒に泣いた。パパはずっと励ましてくれて、やっとあなたに会えた。
かわいくてたまらない。
おっぱいを飲んでいる顔、お風呂での気持ちよさそうな顔、うんちした後のすっきり顔、夜中なのに目を輝かせている顔、離乳食でジャガイモを食べた後の顔、全部大好きだよ。寝返りして、座れるようになって、つかまり立ちを始めて、「あー、あー」って話しかけてくれる。テレビのリモコンや携帯電話を見つけては嬉しそうに掴む小さな手。こんな幸せな気持ち、知らなかったよ。教えてくれてありがとう。何をしていてもかわいいと思える、ママを成長させてくれてありがとう。ママの心は今日も穏やかだよ。
赤ちゃんと一緒にいるとね、いろいろな人が声をかけてくれたり、助けてくれたり、本当に心が温まるの。知らなかったよ、優しい人、親切な人がこんなにたくさんいるなんて。それもこれもあなたのおかげ。心穏やかにしていると、幸せがいっぱい感じられる。最高だよ。
ママの顔、昔の同僚が見ると誰だかわからないくらい変わったんだって。優しいお母さんの顔になったんだって。
あなたの笑顔を見ていると、これからも心穏やかにいられそうだよ。
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