氷解|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第12回】~ 赤ちゃんへの手紙 ~

入選

・氷解

宮城県  会社員  女性  33歳

札幌→仙台への転勤が決まり。
引っ越す直前のある日、
おじいちゃんが、泰ちゃんに会いに来てくれました。
おじいちゃんは、とてもシャイな性格なので
初めて会わせた時は、
抱っこするのも何もかも遠慮がちだったのに。
今回は、来るなり
「泰ちゃんはどこ?」
泰ちゃんもお昼寝中だったのに、
おじいちゃんが来ると同時に起きて
人見知りで泣くこともありませんでした。
そして、おじいちゃん自ら、
「どれ、抱っこさせて」と言い。
「カメラあるなら、写真撮ってくれ」と言い。
…いや、これって世間的には普通のことなのだろうけれど。
おじいちゃんに関して言えば、まるで別人みたいというか。
もうすっかり「泰ちゃんLOVE」の
正真正銘“おじいちゃん”になっていて。
何といいますか…
母は、とても嬉しかったのです。
…私は、長年
父親にわだかまりの感情を抱いてきました。
もちろん、小学生の時経験した
両親の離婚も、その大きな一因ですが。
父親個人に対して、幼少の頃から苦手意識があり
心を開いたことがありませんでした。
離れて暮らしていても、大人になっても、
その感情が、心の奥底で、常に私の足を引っ張り、
「自分は決して幸せにはなれない」
と思い込んで生きてきたのです。
社会人になり、5年間、鬱病で苦しんだのも
元を正せば、父親への感情が原因。
会社勤めをしながらも、
心理学を学ぶべく2年間学校に通い。
ユングやフロイトの勉強、
様々なカウンセリング症例の研究、
心理療法の実践、レポート書きなどを行いながら
自分の心の奥と向き合う作業を続けてきました。
しかし、結婚後ですら、
何かのきっかけで、突如、父に対する猛烈な怒りに襲われ、
自分をコントロールできず、泣きじゃくったりと、
この感情から解き放たれることはありませんでした。
…でも。
泰ちゃんが生まれ。
父親を「一人の人間」として、俯瞰して見たときに。
孫の誕生を、心から祝福してくれたこと。
とても可愛がってくれていること。
そんな姿から垣間見える父の姿は。
弱さや傷を抱えながら
自分なりの方法で一生懸命生きてきた
ただの一人の人間で。
なぜこれほどまでに、
父に悪感情を抱き続けてきたのか。
…よくわからなくなりました。
その日、会話の中で。
「泰ちゃんに火傷とかさせないように気をつけなさい」
と言われたので。
「私も火傷したりしたの?」
と聞いてみると。
「つかまり立ちして、そのまま味噌汁の中に
手を突っ込んで火傷したんだ。
水で冷やすということが当時はすぐに思いつかず、
慌てて醤油をかけたんだ。」
なんてエピソードを聞いて、思わず笑ってしまい。
「それで、後から親戚に聞いて、
○○薬局に○○っていう火傷に効く薬を買いに行った」
と。
未だに、その薬局名や薬の名称まで忘れていない父に。
私は十分愛されていたのだな、と
しっかり感じ取ることができたのです。
…なんというか、腑に落ちた感じ。
父へのこれまでの感情から、
ようやく解き放たれた瞬間でした。
全て、泰ちゃんのおかげだと思います。
泰ちゃんの存在が、全てを癒し、全てを繋げ、
私に、新しい目を授けてくれたのだと思います。
帰りに駅まで送って行き。
振り返って、泰ちゃんに手を振る父は
何というか…とてもピュアで
子供のようにすら見えました。
「父」として見ることに、卒業できた。
同じ「親」になった者同士、共感できた。
赤ん坊の力は、本当に偉大です。
これまでの親子関係の終わり。
新しい親子関係の始まり。
…すがすがしい気持ちで、仙台に行けそうです。

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